2019年に手にした機材まとめ ~EOS R編~

当初は2019年版機材まとめを書くつもりはなかったのだけど、このカメラについては多少は書けそうかな、と思ったので書いてみた。

EOS R。キヤノンが同社はじめてのフルサイズミラーレス機として世に送り出したカメラ。私は6Dの代替としてコントロールリング付のアダプターとともにEFマウント機として導入。RFレンズは持っていない。何というか守備範囲のはっきりした機械で、その人の撮影スタイル、撮影対象次第で評価がかなり分かれると思う。私は仕事で5D3、A7R2をメインカメラとして使用している人間なので、それらと比較しての話が多くなりがち。ファームは1.0〜1.4時点の話。

<良い点、魅力>
・RFマウントレンズ。
当たり前なのだが、RFマウント機の魅力はRFマウントレンズが使えるということ。メーカーデモ品を触っただけだが、RFレンズはどれも描写力に優れていて驚かされる。
のっけから何だが、RFシステムの現状の最大の問題点は、その優れたレンズに投資しようと思わせるだけのまともなボディがないことである。

・AF。
特にAF-S使用時、狙ったところに正確かつスムーズ、高速に合焦する。一眼レフの位相差AF独特のデリケートさ…レンズやボディを買うたびにそれぞれの組み合わせでAFのマイクロアジャストをしたり、ベストピント調整してもらったり、ゼロ出ししてもらったり…がなくなったのはとにかくありがたい。
AF可能な範囲が圧倒的に広く、思った点でAFできる。精度の高い中央測距点でピントを合わせてロック、カメラを振るとコサイン収差があるので少し絞って…みたいなことをしない・考えないで済む。
暗所では時折迷うこともあるが、5D3比では圧倒的に良好。
秒間5コマでしか追従しないけれども、AF-Cの精度も良い。5D3程度の実力は十分あると思う。

・顔認識、瞳認識
出たばかりの時はかなり寄らないと顔認識、瞳認識しなかったのだが、ファームアップで改善されてきて、使えるようになってきた。

・タッチパネル操作
自然なタッチパネル操作。DPAFとタッチパネル、バリアングル液晶の親和性の高さが素晴らしい。
タッチ&ドラッグAFも良くできているが、それでも(マルチファンクションバーを削除して)いつものジョイスティックがほしいところ。

・センサー画質
5D3と比較して画質が向上した。とはいえA7R2と比較すると、そんなに良いとは思わない。色はキヤノンの色で、安定感がある。

・C-RAW
データ量が軽くて良い。とても地味な長所なのだけど、体感的には以前の倍くらい撮れる感じで(データ量を見ると決してそんなことはないのだけど)、長時間にわたる撮影でもカードの残量を気にしないで撮影できありがたい。

・電源OFF時のシャッター幕の挙動
他の機種にはない挙動として、電源を切るとシャッター幕が降りてセンサー面を保護するようになっている。センサーにゴミが付着する対策には良いと思う。

<悪い点>
・RFマウントレンズと、そのラインナップ。
レンズラインナップが高価で、大きく、重いものに偏っている。物が良いのはわかるけれど、そうそう買えない…と言うのが正直なところ。NikonのZマウントのF4、F1.8レンズ群がうらやましい。14-30/4などは特に。

EVF
見えは良い。良いのだが、被写体が強い逆光を背負ったとき、被写体がシルエットになってしまって使い物にならない。露出SimulationをONにしようがOFFにしようがそれほど変わらず。A7R2の方がちゃんとバランスを取って表示してくれる。

・ゼブラがない
何度も探したんですが見当たらない。なぜないのか、理解に苦しむ。

・撮影後のビューの遅さ
シャッターを切った後、撮影画像を表示させる(「撮影画像の確認時間」を切以外)設定にしていると、その表示が一呼吸遅い。シャッターを切った後に撮影画像が表示されないままライブビューに戻り、それを見ながら次のシャッターを押そうとするタイミングあたりで撮影画像が表示されるイメージ。テンポがとても悪い。

・撮影後に半押しを離した時のプチフリーズ
「撮影画像の確認時間」を切にしている場合、シャッターを切った後に半押しを解除したタイミングで画面が一瞬固まる。このプチフリーズのせいで状況を途切れず追うことが難しいし、そこで撮影のテンポが落ちてしまう。

・連写時の表示(非RFレンズ使用時)
EVF、液晶ともに、連射時にライブビューではなく、撮影された最後の画像が連続して表示される仕様になっている。EOS Rの連射は最高秒間5コマなので、5fpsのパラパラ漫画のような表示になり、ファインダー内でリアルタイムな状況を把握することができない。
一眼レフ機の5fpsは、リアルタイムの連続した表示の中に秒間に5回の暗転が挟まるというもので、露光と露光の間はミラーが戻っている限り現在のファインダー像を見ることができる。EOS Rの場合はそのようなことはなく、画面には最後に撮影された画像が静止画で秒間5回更新されるだけ。
動くもの、とりわけ不規則に動く対象を撮影するには厳しい。

・どの時点の像が切り取られているのか想像できないファインダー
ここまでの問題が積み重なり、シャッターを切った時に、どの時点の像が切り取られているのかがはっきり想像できない。例えば、投げ上げたボールを放物線の一番上の点で写真に撮る、という状況を想定したとき、EOS Rだと難しいなあ…レフ機ならずっと簡単にできるのになあ…と真っ先に考えてしまうのが正直なところ。

・露出がばらつく
測距点に引っ張られすぎなのだろうか、構図や測距点がほんの少し動いただけで露出が大幅に変わることがある。キヤノンは以前からその傾向があったが、EOS Rではより顕著になった気がする。

・Sモードのないドライブ
完全無音になるサイレントシャッターモード(完全電子シャッター)があるが、これを使うと当然のことながらストロボは使えないし、フリッカーレスと組み合わせることもできないのが厳しいところ。通常のメカシャッター音はやや耳障りで、6DのSのような静音シャッターがあるとうれしかった。

・煩雑で集中力を削がれる操作系
新しい操作系は、撮影機能を変更する際に従来の操作と比較して操作が1アクション多くかかるように設計しなおされており、以前の操作系と比較して速度に劣る。
EOS中級機のメイン電子ダイアルの後ろに用意されていた、ワンアクションで主要機能にアクセスできる各種のボタンがなくなっているのがとても痛い。

例えばドライブモードを変更したければ、これまでは
1、ドライブモード選択ボタンを押し
2、対応するダイヤルを回転
すればよかった。
それがEOS Rでは、
1、M-fnボタンを押してダイヤルファンクションを呼出し
2、ドライブ機能を選択し
3、ダイヤルを回転
することになる。

ダイヤルファンクションメニューを呼び出した際、それがどの機能を変更できる状態で呼び出されるかは呼び出すまではわからないので、呼び出したのちドライブ機能を選択する際は画面下部のダイヤルファンクションメニューを注視していなければならない。
これまでは特段どこかを注視しなくても手探りで操作を完了できたことが、EOS Rだと画面表示を一定時間注視することを強いられるため、ファインダー内で起こっていることや対象への集中を削がれている様に感じる。
もちろんこれは慣れの問題も大きいのだろうけど。

・M-fnボタンの小ささ
これは悪い点、というよりもよく理解できなかった点なのだけど、新操作系で重要な役割を担っているボタンであるにもかかわらず、とても小さく感じる。分厚い手袋越しできちんと場所を探って押せるのだろうか。

・コントロールリングにISOを振った時の挙動が理解できない
コントロールリングにISOを振った時、そこで期待される挙動はISO感度設定ボタンを押した後のダイヤルのそれではないかと思う。しかしながら、オートISO設定からコントロールリングでISOを変更する際には不思議な縛りがあり、それが実に使いづらい。
まず、オートISOの状態では、測光タイマーが働いてISOの数字が表示されている限り、コントロールリングではそのISOの数字を左右することしかできず、その状態からリングを動かしてオートISOに戻ることができない。
さらに、オートISOの状態から、コントロールリングで数値を設定した後、測光タイマーが切れるとその設定した数値を忘れてオートISOに戻ってしまう。
これではまるで測光タイマーごとに露出補正値がゼロにリセットされるカメラを使っているようなものだ。

・ISOを振ることのできるボタンの選択肢が少なすぎる
カスタマイズの選択肢が広いことを売りにしているようなのだが、そこまでではないというのが正直なところ。特にISO感度設定を振ることができるボタンは2つ(L-Fnのあるレンズであれば3つ)のみである。このような制限は何か理由があるのだろうか?

・使っていないマルチファンクションバー
最初に少し使ってみたのだけど、これに慣れる努力をするくらいなら無効にしたままでいいと思った。

十字キーがあんまりな作り
ボディーのみ20万を超えるカメラの十字キーとは思えない、ペタペタしたつくり。Kiss系と同じ部品に見える。80D系はもっとまともな奴がついてる。

・電源ダイヤル
これも手探りでONなのかOFFなのかわからない形になっている。どうしてこうしてしまったのか。

・顔認識すると水準器が消える
ゼブラしかり、なんでこんなことができないのか、ということができない。

・シングルカードスロット
仕様が発表されたときに散々言われたこと。シングルスロットでも使うことはできるのだけど、デュアルスロットでなければできない仕事があるので、あるに越したことはない。

<個人的なまとめ>

このカメラは、このカメラに状況を合わせることのできる…自分で状況をコントロールできるスタジオや出先でのセッティングしての撮影に向いていると思う。瞳AFが使い物になるようになったので、ポートレートなども向いていると思う。逆に、刻一刻と変化する状況にカメラ(と自分)を合わせる必要のあるスポーツやイベントの撮影には向いていない。

誰かにこのカメラを検討しているのだけどどうだろう?と訊かれたならば、

・RFレンズを使いたい

・いつも自分で状況をコントロールできるだけの余裕のあるシチュエーションで使用できる

の二つがマッチしている場合に限って、検討してみたら?と答えるだろう。それ以外の場合、このカメラを他人に薦められるか?と聞かれたら正直に答えよう、あまり薦められない、と。