大宮瞳子展を見た。
わかりかねるところが幾つかあったが、良い展覧だった。もっと振幅が大きくても良かったかもしれない。
会場で作者さんに話しかけられ、考えた大半のことはその場で喋ってしまったので、それを再びここに書くことは気乗りがしない。かわりに、会場で考えていた言葉をここに書き記しておく。
「私」は夜に居る。
夜の手触りは雨滴に滲んだように不鮮明だ。
これは悪夢なのだろうか。
私は夢から目覚める。
目の前に一匹の名も知らぬ虫が居て、きらきらと輝いている。
夢の中で私は、この虫だったのだろうか。
私は見知らぬ海辺を歩き出す。
他人行儀な草叢に突き当たり、橋へと道を変える。
電車が来て、私はあの草叢を横目に光の世界へと旅立つ。
そこはまぶしくて、何もかもが光に融けて行くようだ。
いつか見た光景も、いつも見ている光景も、何もかもが光の中で等質化されてゆく。
私は電車を降りる。
とたんに身体の重さを感じて息苦しくなる。
視界が青黒くなり、見下ろした街には腰の曲がった老婆が歩いている。
歩いた川べりには正体も知れぬ人たちが何事かを囁き合っている。
気がつくと、明るく開けた土地に居る。
ここはどこなのだろう。
美しく、色彩以外何も無い土地が続く。
空に飛行機が飛んでいるのを見て、帰らなければならない、と思う。
私はこの世界に別れを告げて、再び列車に乗る。
列車は一瞬にして私をもといた世界に連れ戻す。
私は一瞬だけ垣間見た光の世界を探して枇杷に手を伸ばすが、それはあの記憶には結びつかない。
そうして私は、依然として曖昧な夜に居る。