vermilion
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「大変だ、早く奴を止めないと下の階が水没しちまう」 薄汚いベッドの上で、汗まみれで目覚めた男はそう言った。ベッドを囲んだ人間たちは一様に訝しげな表情を浮かべて、互いに視線を交わしあう。 「まあ、水でも飲みな」 部屋の隅に居た背の高い男が腕組み…
「あるところに、猫がいた。 猫は、ある主人に飼われていた。 猫はそれを愛する主人の手によって高い塔の中に幽閉されていた。 主人は夜な夜な猫のもとを訪れてはその優美な仕草を愛でた。 そのように飼われていたため、猫の毎日は単調だった。 しかし、猫は…
「ねえ、暑いから何か買ってきてよ」 僕に犯されたままの、上半身にシャツを着ただけの姿で君が言う。流しっぱなしの水ですら、あの老婆の血を流しきれない。あの古い血が、水の流れをさかのぼって君の白いシャツを紅く染め上げる。 「こんな夜中に何が売っ…
vermilionと云われて最初に連想したのは油絵の具のvermilion tintであった。これは少しでも絵の具を触ったことのある人ならすぐに分かる言葉だが、それ以外の人には分かりにくい言葉なので簡単に説明する。高価な色や、混色で変色しやすい色には他の顔料を用…
jounoさんの文章は最後にオチがつく、というか物語構造をどこか別の次元に脱臼させるような仕掛けがあって、おもしろい。物語がそこで完結せずに、毎回宙吊りになるというか(変な日本語)。
vermilion::textの文章を昨年の12月24日に追加し、公式?にもアナウンスしてみた。 「一日の日記領域」というものがあるので、過去の日記にテキストを書くことはあまり好ましくないと思われるのだが、ここのニュース的な内容とvermilionの間には隔たりがある…
「ええと、ここでいいのだったかなあ…」 そうつぶやきながら、私は旅行鞄を足元に置いた。四角い、縦に置けば私の腰まで届く旅行鞄は厚ぼったい革でできていて、いっぱいに詰まった中身と併せて私にはいささか重すぎた。 71階の「駅」で紹介された小さな宿屋…
「お兄さん、お兄さん」 旅人が濁声で呼び止められたのは、海と砂漠との縁に建つ辺境都市の酒場であった。振り返った旅人の視界に、薄汚いなりをした腰の曲がった小男が映った。公衆浴場の盛んな町であったが、脂ぎった男の顔には虱か何かに食われたような赤…
何者かに見られている様な気がして、旅人ははたと足を止めた。あの少女だろうか、それともあの囚人たちか。振り返るも、背後の扉は既に閉まっていた。回廊を見渡すが、象牙色の大理石、緋の絨毯と金刺繍、金で出来た絨毯を止める金具が目に付くばかり。旅人…
「ようこそ、旅人」 けだるげな様子でその少女は言った。 「どうした、ここが気に入らないのか」 旅人を驚かせたのはその少女の周りに散らばっている変死体と思われる人間たちであった。彼らは半身を開かれて内臓を烏についばまれていたり、尻から口にかけて…