vermilion::text:70階「流れ星」

「ねえ、暑いから何か買ってきてよ」
僕に犯されたままの、上半身にシャツを着ただけの姿で君が言う。流しっぱなしの水ですら、あの老婆の血を流しきれない。あの古い血が、水の流れをさかのぼって君の白いシャツを紅く染め上げる。
「こんな夜中に何が売っているって言うんだよ」
割れた窓から生ぬるい夜風が吹き込んでくる。
「お金はあるでしょ」
ベッドにはさまざまな体液が染み付いて、夏の暑さもあいまって異様な匂いを発している。
「君が殺した婆さんのお金がね」
君は窓の外の星を見て、僕を見ない。
「現金を持っている人でよかったじゃない」
破れ窓から吹き込んだ夜風が床に散らばる紙幣をまきあげた。
「工場の爆発でここらへんの商店なんか全部潰れたさ」
「あ、流れ星」
僕に流れ星は見えない。